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「できた!」という成功体験の重要さ【前編】開発者対談レポートvol.2

2021年10月29日に開催された、しくみデザインのオンラインセミナー「未来の可能性を拡げるSTEAM教育―「できた!」原体験は創造の原動力―」。

今回は、ソニー・インタラクティブエンタテインメント、「toio」の開発者、田中章愛(たなか・あきちか)さんをお迎えして、「できた!」という成功体験の重要性と、STEAM教育と将来の仕事について、お話を伺いました。

聞き手は、創造的プログラミングアプリスプリンギン」の開発者である株式会社しくみデザイン代表の中村俊介


vol.2の今回は、「できた!」という成功体験の重要さについて、お送りします。

動画はこちらからご覧ください。


「できた!」という成功体験の重要さ

ロボットはものづくりの要素が全て集まった交差点

田中:なにかが「できた!」「動いた!」とか、ゲームができてみんなが喜んでくれたとか、やっぱりそういうちょっとした「成功体験」が大事ですね。だからまた続けたくなるとか、もっと工夫したくなるとか、そういうことにつながるんじゃないかなと思っています。

中村:田中さんはいろんなところで活躍されてるので、きっと「小さい成功体験」をいろんなところで経験されているんだろうなと思います。どんな成功体験がありますか?

田中:成功も失敗も両方あります。思い返すと、一番大きいのは、長崎の佐世保高専。NHKのロボコンに出たこともありました。

地方大会を勝ち上がって全国大会に行くんですけど、やっぱりチームで課題に対してこういうロボットを作ろうと、学校に泊まり込んで、初めて徹夜をしました。なんとか動いて、国技館に持って行ったら、2回戦ぐらいで負けたんです。
でも、全国大会に出られた経験や、ロボットがちゃんと動いた時。頭の中にしかなかったアイデアが、形になって、みんなの前で動いたっていうのは、すごい大きな体験でした。

 ロボコンに出たとき、有線リモコンという線を引き回してたんですけど、途中で線が試合中に切れちゃって(笑)。それで負けたんですけど、それはものづくりの厳しさでしたね。

本当に大事なときにいきなり切れちゃうので、悔しさも当然ありながらも、実際にものをつくって、そして世の中の人に届けるというのは、もっと大変なんだろうなとか含めて、この道に進みたいなと思った大きなきっかけでした。

中村:高専に入ろうって思ったきっかけは何だったんですか。

田中:小さい頃、小学生の2年生か3年生くらいから、夏休みの工作に、何かしらロボット工作して展示するのを、毎年やってました。お年玉全部つぎ込んで、夏休みに使い果たす。モーターとか木材とかいろいろ。それを展示するということを繰り返していて、親とか爺ちゃんもエンジニアだったので、ものづくりに携わっていたからだと思うんですけど。
つくって完成する。それを人に見せて、すごいとか言われるのが面白かったし、一番気持ちよかったのかなと。

中村:ロボットがやっぱり好きだったんですかね。

田中:そうですね。なぜロボットにこだわっているのかわからないんですけども、いろんなものづくりの要素がすべて集まった交差点みたいな感じがします。

ハードウェア的なのも、物理的なのもそうだし、プログラム、ソフトウェア、デザインもそうだし、まさに今日のSTEAM的な体験が全て詰まっていて、総合芸術みたいな感じもあります。

人に何かサービスしたり、体験を届けることができるというところに、魅力があると思っていて。いろんな技術を絶妙なバランスで組み合わせないと成り立たないというところも面白いなと。

中村:やっぱり小さい頃から、ずっとロボットを作ってるってことは何か、グッとくるものがあったってことですかね。

田中:そうですね。自分の場合は小さい頃に作ってた、単にスイッチ入れたら右に動く、左に動く、みたいなものですけども。

人間はやっぱり動物だからかわかりませんが、動くものにすごく興味が湧きやすい。友だちに見せると、びっくりしてもらえる。動き出したっていうだけで面白いと言ってもらえました。

組み立てて完成したら、自分の分身みたいな気持ちになれるというところも面白かったところかなと。

中村:一個こんなのを作りたいなって思って作って、「わあ、できた!見て!お父さん見て!」みたいな感じでやって、それでまた褒められて、また次もっとすごいの作るぞ!みたいなのが、どんどん繰り返していったような感じですか。

田中:はい、そうだと思います。

中村:今のは田中さんのお話だったんですけど、今の人たちとか子供たちとかにも、こういった体験をしてほしいという思いがあるってことですよね。 

田中:そうですね。数学とか物理とかいろいろな勉強をやりたいと思ってやったっていうよりは、ロボットを作ったり、何か作るときに必要だからやっていました。これ計算しないとロボット動いてくれない。必要に迫られてやったことが多いかも。

やっぱりそれでできたって思うと、何かの役に立ったので、物理の計算が役に立ったとか、ちょっとずつ「できた!」が積み重なって、いつの間にか別に好きではなかった物理の計算ができるようになったとか、そういうのがあって、やらされるよりやりたくてやるとか、必要に迫られて、追い込まれても含めてやっていくっていうのが、いろんなスキルとか考え方の一番大事なところが身に付く大事な要素なんじゃないかなと感じてきました。


中村:実際にtoioを使って教育に携わっているところもあると思うんですけど、この辺どんなところを意識して、使い方とかお話をされてますか。

田中:「まず、すぐ動く」というところが大事かなと。

iPadのプログラミングで動くようになっているんですけど、「前に進む」っていうプログラムを一個書けば前に進んでくれる。それだけで、やりたいと思ったことがちゃんと結果として表れる。こういうところが大事かなと思っていて。

まずは、やりたいと思ったことがビジュアルプログラミングのブロックになっていて、それがぱっと達成されて動くとか、あとたくさんサンプルプログラムを用意していて、2台のキューブを使って追いかけっこするとか、やりたいことがイメージしやすいようなサンプルプログラムを用意して、なんとなくできたなっていう感じになれるように。できるだけそこに近づく、まずは「作れた!」「できた!」というのを感じてもらうのが大事です。

中村:最初に勉強することを強要するから、嫌いになっちゃうんだろうな。さっきの物理とか数学もそうですけど、算数は将来役に立つかもしれないから頑張って勉強しなさい、とか言われると、なんでこんな計算しなきゃいけないのかなってなっちゃう。

このロボットを組み立てて、手をこう動かしたいんだと思ったときに、どこに力をかけて、どういう形にすればちゃんとそれがバランスとれるのかっていうのを、ちゃんとやり始めたら、いやこれは算数、数学いるよって、絶対になりますよね。

田中:そうなんです。かつ、僕は大学時代に人型ロボコンにも出てたんですけど、その頃はもっと切実でした。モーターが1個1万円とかするんです。アルバイト代をはたいて作っていたんですが、計算を失敗すると、ぶっ壊れるんです。燃えちゃったりとか、鉄が折れちゃったりとかするんで、計算を間違っただけで、1万円飛んじゃうんですね。

中村:それはかなり切実ですね(笑)

田中:絶対に間違えられない計算があったりするんで、だんだん好きでやってるのか、追い込まれてやるかわからなくなりました。でも、ちゃんと計算どおりに、式を作って、関節が動く人型ロボット、計算をすればそれ通りに動いてくれるし、壊れずにちゃんとやりたいことができる。

小さい頃はもうちょっとかわいいものですけど、切実に必要になってくるし、そうやって世の中のものとか、車とかマイコンなんかもそうですけど、正確に安全に動いているものに対して、リスペクトの気持ちがだんだん湧いてきました。


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今回は、田中さんの幼少期から学生時代における実体験に触れながら、成功体験の重要さについてお話しいただきました。

次回は弊社代表の中村が、自身の過去の実体験も踏まえながら話していきます。