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toio・スプリンギンをなぜ作ったのか 開発者対談レポートvol.1

2021年10月29日に開催された、しくみデザインのオンラインセミナー「未来の可能性を拡げるSTEAM教育―「できた!」原体験は創造の原動力―」。

今回は、ソニー・インタラクティブエンタテインメント、「toio」の開発者、田中章愛(たなか・あきちか)さんをお迎えして、「できた!」という成功体験の重要性と、STEAM教育と将来の仕事について、お話を伺いました。

聞き手は、創造的プログラミングアプリスプリンギン」の開発者である株式会社しくみデザイン代表の中村俊介

今回は、toioとスプリンギンをそれぞれどうして作ったのかについて、お送りします。


動画本編はこちらをご覧ください。


toio、スプリンギンをなぜ作ったのか

自分の世界が動き出すロボット、toio

田中:toioは白いキューブ型のロボットで、レゴブロックをくっつけたりすると自分の作ったキャラクターや好きなおもちゃに化けることができます。

工作生物ゲズンロイドでは楽しい生き物のプログラムをつくれますし、小学生の娘が紙工作で好きなキャラクターを作ってくれたものを付けることもできます。

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toioというロボットは、キットの中に2台入っています。同じロボットが2台あることで、自由に対戦ができたり、ゲーム的な遊びができるようになっています。
輪っか型のコントローラーはリモコン操作もできますし、いろんな技を繰り出す、ロボット・コンテストのような遊びもできるようになっています。

プログラミングだけではなく、いろんなゲームができるパッケージもあります。その中にカートリッジがあって、toioのコンソールにゲーム機本体のように差し込んで、ロボットを動かすゲーム体験ができるようになっています。

また、toioにはマットもあり、マット上には目に見えない特殊な印刷がされています。この上にtoioのキューブを置くと、自分の位置が正確に数ミリ単位で分かる特殊なセンサーを搭載しています。これを使うとゲーム的な遊びもできるんですが、加えて、プログラミングするときに使うXY座標、このマットの行きたい位置に移動することもできます。

こういったことができるので、ビジュアル・プログラミングや、JavaScriptとかいろんなプログラミング方法で、思い通りロボットが簡単に動かせる。作りたいゲームが作れる体験をtoioで提供しています。

中村:これは全部がtoioですか?このキューブがtoioですか?

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田中:この製品全体を「toio」と呼んでいまして、その中のキューブ型ロボットを「toioコアキューブ」、通称「キューブ」と呼んでいます。このキューブが一番の主人公なんで、「コア」という名前をつけています。

 ここにいろんな自分で作ったレゴブロックを載せていきます。作ったものが動かせるっていうのが、何よりファンにとってかけがえのない体験になるんです。実際にそういう声もたくさんいただいています。

中村:では、toioをそもそもなぜ作ったのかというところを伺いたいのですが、「ロボット・トイ」っていうけど、toioはロボットっぽくないじゃないですか。我々が普通にイメージするロボットとはちょっと違うと思うんですけど、なぜこのようなものを作ろうと思ったんですか?

田中:自分の作ったおもちゃや、自分の好きなおもちゃの世界が動き出したら、楽しいんじゃないか。若気の至り的な、ピュアなところから始まっているんです。

もともと、2012年頃、僕はソニーの中のロボットの研究者として、いろんなロボットを作っていたんですが、もう一人、アレクシー・アンドレというコンピューターゲームとかユーザーインターフェースの研究をやっている人と出会うことがあって、お互いを好きなことを話しながら、何か一緒に作ろうよっていう話になって。

その中で、彼はゲーム、僕はロボットのハードウェアを作っているので、おもちゃが動き出して、ゲームみたいになったら面白いんじゃないかという話が盛り上がりました。

その勢いで、ちょっと作ってみようよと。その頃ちょうど3Dプリンタが出始めたので、とりあえず作ってみたらとても楽しくて、自分たちでも欲しいと思ったし、会社にいる仲間のお子さんに見せてみるとすごくハマってくれた。これでサッカーのゲームとか、バトルゲームを作ると言っていました。

 そういうところから、「自分の作ったものとか目の前の世界が動き出すって、すごい体験なんだな、楽しいんだな」ということに気付いて、これを製品化したいと思いました。

 中村:「こんなのあったらいいよね」っていう、研究の延長というか、エクストラ的なところですよね。そういうところから作ったら、すごい面白いものができちゃった。

 田中:今思い返すと、小さい頃、僕もブロックや工作が好きでした。さらにプログラムや技術を学んで、自分たちが作ったキャラクターを思い通りに動かせるということを知りました。「自分たちが子供の頃欲しかったもの」というところが、すごく大きいなと思います。

中村:僕が一番最初に田中さんにお会いしたのは、発売される前のものをプレゼンされてるところで、正直ちょっと嫉妬したんですよね(笑)。「やられた〜」って思って。

スプリンギンをロボットとつなげるならどうしたらいいかなって考えるんですよ。その時に、僕がイメージしてたのは、いわゆるロボット、人型やいろんな形をしているやつではなくて、とにかくシンプルに最小限の構成で、いろんなことができるロボットが絶対いいよなって思ってたんです。

いろんなタイプがあって、丸があって四角が入って三角があってとか、これは距離センサーを持ってて、これは音センサーを持っててとか、そういうことじゃなくて、本当に最小限にそぎ落とした1個、1種類っていうものを、いかにいろんな組み合わせをすることで新しいものを生み出すかっていうロボットが欲しいなって。そんなときtoioを見て、「うわやられた」って思ったんです(笑)。

 だから、ずっとそこから気になって気になってしょうがなかった。絶対もっといろんな機能をつけたくなるだろうし、いろんな種類を出したくなると思うんですよ。だからその辺どう思っているのかなと気になります。

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田中:最初はいろんなタイプを作ってみて、実はこのキューブ型になるのは一番最後でした。最初はカメラモジュールロボットとか関節ロボットとかいろいろ作ったんですが、組み立てるのも大変だし、遊びの前の準備が結構あるなと。そうすると、何をするのかが分かりにくいなって。

いろいろ作った中で一番面白いのは、モーターが2個だけ入った四角いロボでした。そこにキャラクターを乗せた瞬間に、このブロックだったり、この絵の人が動き出したように見えたんですよ。下のこのキューブは黒子に徹して、キャラクター自身が作品に見えた。自分が作った感もあるし、世界が動き出したっていう瞬間があって。

逆に、大きいサイズのキューブを作ったこともありますが、今度はキューブがロボットにしか見えなくなって、上の作品がオマケみたいになってしまいました。

やっぱり自分が作ったものが動くっていう体験が一番面白いと思ったし、絆が深まり、遊びに集中できる。そこに絞った方がいいんじゃないかと思ってこの形になりました。

中村:機能は単純だけど、イマジネーションというか想像力もすごく広げられる最小限みたいなイメージは、すごいありますよね。たくさん増やしたくなるというか。何個もあったら、いろいろなことできるんだろうなって思います。

田中:そうですね。最近はメディアアーティストの方にもよく使っていただいていて。昨年は、キューブを260個同時に動かすなんて作品もありました。動くもの、キャラクターにすごく関心が向くので、そういう意味で最小構成がいいのかなと思います。

自分の描いた絵に命を吹き込む、スプリンギン

中村:では、スプリンギンの方の紹介もしてみたいと思います。

めちゃくちゃ簡単に言うと、何にもないところから絵を描いて、描いた絵を画面に置いて、実行して、飛ばしたりとか、全体に対して重力をかけたら落ちるよとか。

描いたものをどんどんどんどん画面に置いていって、こうやって全部落ちちゃうんだけど、こっちの方はピンで留めといてあげると今度は落ちないよとか。こんな感じで、アイコンの組み合わせのみで、命令を与えていくことで、自分の描いた絵を動かしていきます。

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今のところ描いて動かすだけに見えるんですけど、結構いろんなのが作れてしまうんですよね。スプリンギンの中にある作品を見てもらえればわかるのですが、普通のスマホのゲームぐらいのものは、サクサクと作れてしまうアプリになってます。

なんで作ったかというと、解決の方法は違うんですけど、田中さんがtoioをつくった想いとすごい近いなと思います。

僕はずっとクリエイターとして、いろんなメディアアートとか作ってきたけど、自分たちばっかり作るんじゃなくて、もっとみんなが作れるようになったらいいなっていう想いがあったんですよね。

でもあんまりいいツールがないし、プログラミングってやっぱり難しいっていう印象があって。実際難しいんですけど、できるようになるまでがとにかく長いじゃないですか。

だから、いかにショートカットしてできるようになるかと。これはもうテクノロジーとデザインでカバーすればいいじゃないかと。それでスプリンギンを作ったんです。

気持ちとしては、自分の描いた絵に命を吹き込んで動かしたい。で、それがいろんな関係とかがあって、結果的にゲームになったり、動画になったり、楽器になったりするんだけど。

これは「プログラミングを学ぶツール」と言うつもりは全くなくて、プログラミングもひとつの道具として、実際最近は、「デジタルの紙と鉛筆」ってよく言ってます。

紙と鉛筆だったら、漫画家にも、小説家にもなれる。勉強もできるし、何でもないぐちゃぐちゃのメモもできる。
だけどそれは、使う人によっていろんなものが生まれてくるよねっていうところを、デジタルの特徴をちゃんと生かしたうえで、プログラミングの要素が事前学習みたいなことは必要なく、何かやっていくうちに面白いなって思ったら作れちゃうものにしたいなと思って作ったんです。
だから、「モノがあったら動いて欲しいよね」と言うのと、結構近いって思いました。

田中:そうですね、本当に。アプローチは違いますけど、何か触ってて、スプリンギンにはtoioと似たものを感じますね。

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toio、スプリンギン それぞれ違う形にはなりましたが、開発者二人の「自分がつくったものが動く楽しさを知ってほしい」という想いは共通していたようです。

次回は、「できた!」という成功体験がいかに重要なのかを開発者二人のこれまでの実体験をもとにお話していただきます。